DVの元カレ

生まれて初めて一目ぼれをした19歳の夏。バイト先で初めて彼に出会った時の衝撃を、心臓がバクバク止まらなかったあの日を忘れることはありません。

シフトが同じだった日には挨拶をして話しかけて、彼の参加する飲み会には必ず行き、とにかく彼の近くにいる時間を作りました。

そしてそんな地道な努力が実を結び晴れて付き合うことができた理想の彼とは、約2年のお付き合いでした。

その間、気持ちは当然変わらず結婚も考えるほどだったのですが向こうから別れを告げられ、結局彼とは終わってしまいました。

家族にも公認の仲でしたが、別れたことを言えぬまま家では明るく振舞おうと取り繕っていました。しかし身体は正直で、どんどん痩せていく私の姿を見て母が心配し結果バレてしまったほど、彼との別れは深い傷となりました。

そして大学では、そんな私を見るに見かねた仲の良い友達数人が頻繁に遊びに誘ってくれるようになり、少しずつ元気を取り戻していったのです。

特に、その中の一人の男友達とは一緒にいる時間が急に増え、いろんなところへ連れていってくれました。家に帰って一人で部屋にいると元カレのことを思い出しては泣く毎日でしたが、それでもその男友達の優しさには本当に助けてもらい、このままゆっくりと元カレを忘れていくのだろうと思っていました。

その後はご想像通り、私はその男友達を頼るように付き合い始めました。実はまだ、元カレのことが完全に吹っ切れたとは言い切れない状態であったのですが、これからの新しい彼との時間が心底楽しみだったことに嘘はありません。そして新しい彼のことをしっかりと好きになっていくものだと信じていました。

今までは他の友達も一緒にいるのが当たり前でしたが、彼と二人になるとグッと男っぽさが見えてそんなところに徐々に惹かれていきました。「夜に一人で出かける時はすぐ電話してね、俺も必ずついて行くから」なんて言ってくれる、守ってくれてる感が最高に好きでした。しかし、彼の本性は意外と早く表れたのです。

彼がお友達を紹介してくれると言い、その男の子のおうちへお邪魔した時のこと。彼のお友達がアメフトのファンだという話から、若干の知識があった私は「ダラスカウボーイズ!」とアメフトのチーム名を言ったのです。

「えっ!なんで知ってるの?!すごい!!」とそのお友達が興奮し、そこからアメフトの話題で一気に盛り上がりました。彼のお友達とも仲良くなり、彼もさぞかし喜んでくれているだろうと彼を見ると、まっすぐ前を見つめ表情を変えず黙ったままの彼の姿が.....

そして私に向けて一言、「なんでアメフトにそんなに詳しいの?」と放ったのです。
え?なんでそこに疑問??と思ったのですが、すぐにその理由がわかりました。
大好きだった元カレがアメフト部だったことを、彼と付き合う前に話していたのです。彼は、元カレへの嫉妬で怒っていたのです。

まさかそんなことで怒るなんて思ってもいなくて場の空気も悪くなり、私と彼は帰ることになりました。その帰りの車中、彼はずっと無言でイライラして握るハンドルをドンドンと叩いていました。

そして彼の部屋に帰った途端、近くにあったティッシュの箱を床に思いっきり投げつけました。私には何も言わず手も出さず、その後もただただ物に当たる彼を見て私は恐怖心で怯えました。でもこの時はまだ、今日は会う前に嫌なことでもあったのかな、たまたまだよねって思い込もうとしていました。

 

しかし、その後も同じようなことが何度も続きました。彼が怒るのはすべて嫉妬からくるものであり、私には絶対に手を出すことはないのですが、テーブルを蹴り飛ばしたり壁にパンチしたり、一番ひどかったのは一緒に遊んでいた後輩に矛先を向け外に連れ出した時でした。

彼が部屋に戻ってきた時はもう気が収まっていて、後輩は口元の血を拭きながら帰っていくというカオスな出来事がありました。そしてそんな時は決まって最後に、ごめんねと私に謝ってくるのでした。もう今更ですが、典型的なDV男性のパターンです。

友達だった頃のほうがずっと楽しかった、もう別れたい、そんなことばかり考えるようになりました。でも別れを切り出せば、ついに私も殴られるのではないかと思うと怖くて怖くて言えるわけがなく彼の機嫌を損ねぬようダラダラと付き合いを続けていました。

そんな中、私の家で彼と過ごしている時に、私の携帯が鳴りました。なんと元カレからでした。別れてから初めて、大好きだった元カレからの連絡が、よりによってDV彼氏と一緒にいる最悪なタイミングでかかってきたのです。

彼に、誰から?と聞かれる前にすぐ電話に出ました。すると、元カレが泣いているのです。元カレの泣いたとこなんて一度も見たことがなくてかなり動揺しました。

元カレは泣きながら「どうやっても、試合に勝てないんだ.....」と言いました。
アメフト部の主将も務め責任感も強い人だったから相当苦しんでいるはず、今すぐ元カレのもとへ行きたい!なんて思ったって、

となりには威圧的な目をしたDV彼氏がいるのです。
電話が終わった後に、元カレからだったと言った時点でキレるのは目に見えてるし元カレに優しい言葉をかけられるわけもなく、私は咄嗟に「そんなこと私に言われても困るから!」と元カレを突き放しました。

もちろん、本意なんかじゃありません。ただDV彼氏から身を守るための唯一の手段だったのです。元カレは「そうだよな。ごめんな」と弱々しい言葉で電話を切りました。

その一部始終を聞いていた彼氏は、相手が元カレと知っても怒るどころかご満悦だったので私の身の安全は守られたのですが心は痛くてしょうがありませんでした。

あの時、DV彼氏に真実を伝えて元カレのもとへ行っていたらどうなっていたんだろう、と意味のない自問自答を未だに繰り返しています。

もしかしたら元カレとは何もないまま私はDV彼氏に殴られ独り身になっていたかもしれないし、もしかしたら元カレと復縁して結婚していたかもしれないと、思わずにいられないのです。

ただ、そんなチャンスとも言えるべきたった1度の元カレからのSOSが、DV彼氏と一緒にいる時にきたということは元カレとの縁もそこまでのものだったんだなと考えるしかありませんでした。

今私は幸せに暮らしていますが、元カレのことを死ぬまで忘れることは絶対にない、そんな自信だけは今もなお持ち続けています。

ちなみにDV彼氏とは、物理的な距離のおかげで(彼が大学を辞め地元に引っ越した)無事に別れられました。この二人は私を成長させてくれた大切人たちですが、正直DV彼氏にはもう二度と会いたくないです。

彼の名前を見るだけできっと、気分が悪くなることでしょう.....どうかDVがこの世からなくなりますように。そしてチャンスだと思ったら絶対にその時を逃さないでほしいと、現在恋愛を楽しむ女の子たちに大きな声で伝えたいです。

ペンネーム 星