ひと時のカップル

今思えば、イケナイと分かっていながらも、私はAくんのパパに恋をしてしまいました。

新米で保育園に就職した私は、一年目で年長の担任を持ち、保護者の送迎の際には子どもの様子などを話すのがこの園での日課でした。

お母さん迎えばかりでなく、お父さん迎えも半々でしたから、お父さん達とも話す事はよくありました。

そんな少し慣れてきた7月の事。

1人のパパが、

「先生、ハンカチ落ちてました。」

と手渡してきました。礼を言って誰の物か広げてみると紙切れに私宛てのメッセージが!

〜突然のお手紙すいません。私は◯◯の父です。ダメだと分かっていますが、連絡をもらえると嬉しいです。〜

文の下にはアドレスと番号が書いていたけれど、新米の私はど真面目でしたので、手紙を無視して鞄の中へ丸め入れて無かった事に……。

ですが、そのお父さんは頻繁に手紙を手渡してきました。

当然、職場の先輩にも同期にも相談は出来ず、友達に相談をし、面と向かってきちんと断るべきだと言われました。

次の日、

「お父さん、少し宜しいでしょうか。いくつものお手紙ありがとうございます。でも私は◯◯くんの担任です。お父さんのお気持ちには答えられません」と。

すると、

「いや、どストライクなんですよ!話し方、声、体型、髪とか全てが。せめて、メールだけでも出来ませんか?」

と言われましたが、何とか断りました。

その週末、友達が合コンを設定してくれました。少し上の年齢の方や、30代の人もいて総勢15人程で集まりパーティーのよう。

バーの様な薄暗い店内で、くじ引きで当たった番号の所へ座る私。

初めてで、とても緊張し、乾杯が済むまで下は向いていた私。

「かんぱーい」

と言う掛け声と共に一口ビールを飲んだ瞬間目の前の男性と目が合いました。

◯◯くんのお父さんでした。

向こうもまさか私がいるなんて知りもせずの様子で、ただただ驚いた表情でした。私は、運命的だとも思ってキュンキュン!

「え?先生ですよね?偶然だ!」

「まさか、◯◯君のパパがここにいるなんて思いませんでした」

そこから2人で隣同士の席へと移り、色々な話しで盛り上がりました。

実は保育士の間ではイケメンパパで、どの先生も「あの人が旦那なら」とうっとりしていたのです。

そんなパパとこんな風に仲良くなれたのはいいけれど……と思った時には既遅し。

私はパパに恋をしてしまっていました。

思い返せば手紙をもらう様になり意識をしていたのかもしれません。

お互いが両思いだと知ると、2人で店を抜けて2軒目の店へ。

個室になっているそこで、改めて

「先生に初めて会った日に一目惚れしたんだ。ダメはわかってるけど、この気持ちは止められない。だから今日だけは」

とキスをしました。

何度も何度もキスをしました。

その後は、ラブホに行き体を重ねました。

A君のパパである事を忘れ、1人の男性としてこの時だけは見れたのでした。

帰りの電車の中で、

「メール待ってるから」「うん」

とやり取りをして別れた私たち。

帰宅して、体を重ねてしまうのはもう手遅れだと分かっていても、A君の幸せを壊したくないと思い自分の気持ちに蓋をして、彼にはメールは送らず、コンビニで便箋と封筒を買い、退職届を書きました。

次の日の朝一で、園長先生に提出をすると突然の事に頭を悩ませました。A君のパパと恋に落ちただなんて口が避けても言えません。適当に嘘の理由を言い、急遽その日に退職をさせてもらいました。

朝はパパでは無く、ママが連れてきました。

心の中で(ごめんなさい)と何度も謝りました。

あれから、A君のパパには一度も会っていません。アドレスの紙切れも捨ててしまい、連絡を取る手段がないのです。

でも、時々思い出します。

恋に落ち、色々な話しをしたり、体を重ね合ったりしたあの日の事を……。

ペンネーム・kureyonshinchan