大学時代から演劇活動を続け、地元の松戸に拠点を移してから「omusubi不動産」のまちのコーディネーターとしてレンタルスペースの運営や人をつなぎながら、演劇と地域の可能性を体現している岩澤さんにインタビュー。
岩澤哲野
theater apartment complex libido:代表。演出家。
1990 年、千葉県松 戸市生まれ。既存の文学作品を中心に創作活動を展開。2019 年より 団体の本拠地を千葉県松戸市に構え、地域創造の活動にも取り組 んでいる。利賀演劇人コンクール 2017 優秀演出家賞(二席)受賞。 BeSeTo 演劇祭 2018(韓国開催)に日本代表として参加。急な坂スタ ジオ・サポートアーティスト。百景社アトリエ・レジデンスアーティスト。 omusubi 不動産“まちのコーディネーター”
(岩澤哲野 撮影|鈴木ヨシアキ)
現在、松戸にある「omusubi不動産」でまちのコーディネーターとして仕事をしながら、演劇人としての二足の草鞋を履く岩澤さん。生まれも育ちも松戸市。日芸出身で10年間演劇の世界で駆け抜けて来た。主に古典戯曲を中心とした創作で、これまで手がけた演出作品は、『ロング・グッドバイ』(テネシー・ウィリアムズ)、『象』(別役実)、『紙風船』(岸田國士)、『署名人』(清水邦夫)、『青い鳥』(モーリス・メーテルリンク)、『呉将軍の足の爪』(パク・ジョヨル)『イソップ童話』、『たちぎれ線香』など。
(libido:『呉将軍の足の爪』撮影:韓国BeSeTo委員会 2018 )
2017年には利賀演劇人コンクールで優秀演出家賞(二席)を受賞。BeSeTo演劇祭2018(韓国開催)に日本代表として参加。これまでに、静岡や埼玉県富士見市、鳥取など、日本各地で演劇活動をして来た。個人名義のプロデュースユニット「libido:」を2019年4月30日から集団化。千葉県松戸市にある八柱とその周辺地域を拠点に活動している。これだけ経歴を並べると生粋の演劇人である。
2000年から富山県利賀村(現・南砺市)で開催していた利賀演劇人コンクールは、「地域を越え、国際的に活躍できる演出家の発掘と養成」をコンセプトに若手演出家の登竜門として開かれてきた。現在は兵庫県豊岡市に場所を移して開催されている。もともと過疎地域だった場所に、1976年から演出家の鈴木忠志氏が率いる早稲田小劇場が拠点を利賀村に移し、利賀村が様々な支援を行った。演劇を中心とした事業が大きな成果をあげ、世界的に注目されたことで過疎地域の活性化モデルとして今も語り継がれてる。
引用:Wikipedia |
演劇との出会いは高校の学祭。人と何かを作るのが好きなことに気づくきっかけになり、そこからもっと学びたいと思って、日本大学の芸術学部に進学。日芸は数多くの俳優やアーティストたちを輩出した日本屈指の芸術大学だ。しかし学生時代から演劇を続けてきて、消費されていく感じを徐々に感じるようになっていくのと同時に、自分の表現欲求が明確になっていき、演劇のある生活、地元で活動していきたいとなっていった。さまざまな地方でも活動をやってきたため、演劇と地域との親和性があることは十分感じていた
(AESOP 0.5_1 撮影:鳥の劇場)
10年近く演劇をやって来た中で、次の10年演劇で何ができるかを考えるようになる。全国各地で演劇活動をしていた中でふと地元を見返した時、松戸に「omusubi不動産」の存在を知る。2019年に自身の演劇活動用のアトリエを借りようと訪れたのが始まりだ。
omusubi不動産は、入居者のみなさんや街の方々と一緒に田んぼや稲刈りをしています。なぜおこめをつくるかというと、顔が見えている人と自給自足する暮らしを築きたいからです。まずは自分ができることを自給する。足りないものは顔が見えている人とトレードする。それは食べ物だけではなく、エネルギーも、衣服も、技術も、遊びさえもそうしたい。そうすることで街に暮らす人々や地域、その先にある自然環境が「おたがいさまの関係」でいれれば、きっと暮らしを続けていくことができると考えています。
僕たちがお取り扱いする物件もそうです。あちこちに建物が余ってしまっているのに、たくさんの時間とエネルギーをかけて新築ばかりがどんどん建てられていくのは、なんだかもったいない。それよりも今ある建物が、環境と調和しながら使われて残っていく方が自然です。だからこそ古民家や平屋、レトロなマンションや、懐かしき団地のように、古かったりクセがあるけど味わいのある物件を、DIY・改装可や、シェアOKな条件にしたり、時には物件のルールそのものをみなさんと一緒につくっていくことで、より良く使い続けていきたいと考えています。 そして街の方々と日常で必要な食べ物や家具などを、一緒になってつくったり、交換していけたら、この上なく嬉しい。 引用:公式サイト |
地域コミュニティで演劇活動をしていこうと意気込んでいた中だったのだが、2020年に入るとコロナ禍でそれまでの活動を続けることが厳しくなる。そんな時に、「omusubi不動産」代表の殿塚建吾さんに声をかけられた。「omusubi不動産」の活動の一つでもある田植えに来ないかと誘われたのだ。それをきっかけに20年11月から同社のまちのコーディネーターとなった。
松戸市を語るうえで「omusubi不動産」を抜きに語れない。『お米をつくる不動産』。知らない人が聞くとどんな不動産屋か想像もできないかもしれないが、田植えから稲刈りまで、地域の人たちと一緒に行う。「おたがいさまの関係」というキーワードを掲げ、地域の方とそれぞれ出来ることを自給自足で、交換しながら豊かな生活を目指している。米も作るが、本業はもちろん不動産なので、賃貸から売買も行う。DIY可能賃貸物件の取扱数は200戸以上ある。契約者は改装のための計画書を出して許可がおりれば、原状回復することなく借りた物件をDIYできる。そのため、入居者にはクリエイターやアーティストが多いそうだ。契約者や住民の方とは、米作りのほかにも一緒にイベントを企画して開催もする。最近は松戸以外にも、浅草や下北沢でも物件を手がける。
まちのコーディーターの役割は、入居者と一緒にイベントを企画運営し、物件を借りてもらって終わりではなく、その後の関係性も続けていく。入居者からイベントの相談もあれば、人をつないで欲しいという相談も増えている。一見コミュニティマネージャーのようにも思えるが、あくまでも偶発的な機会を促していく。コーディネーターと名付けた理由も、つないでいく役割が強いことを意味しているそうだ。
レンタルスペースは2箇所あり、レンタルスペースとして改装した古民家『隠居屋 IN kyo-Ya』。キッチン・土間を古民家カフェとして毎曜日使える「古民家カフェプラン」、イベントやワークショップ向けの「古民家レンタルスペースプラン」、1棟まるごと古民家を使える「古民家まるまる貸切プラン」(休日限定)などを提供している。ここは、大正時代に建てられ、関東大震災にも耐えたそうだ。「人々が集まれる空間をつくりたい」という思いをもったオーナーが、片付けから改装まで行って、「隠居屋」がオープンした。トークイベントやジャズライブ、マルシェ、子ども食堂など、様々なイベントが行われる。
2つ目は、曜日で店主が変わるカフェ『One Table 』。日本の道百選のひとつ「常盤平さくら通り」沿いにある。地元の有志でつくられたお店で、フードユニット「Teshigoto」が食をプロデュース、店舗をディレクションし、大畠稜司建築設計事務所が店舗空間を設計デザインして作られた。現在は、omusubi不動産とMADE BY…が運営している。
松戸市は、江戸時代に水戸街道の宿場町・松戸宿として栄え、徳川将軍家ゆかりの地でもある。大きく3つのエリアがあり、松戸エリア、八柱エリア、新松戸エリアがあってそれぞれ自分ごとのテリトリーがあり、3つのエリアが交流する機会は少ない。小さい頃はあまり松戸が好きではなかったと言う岩澤さんだが、帰って来た時に一番のカルチャーショックだったのは、自分がやってる演劇以外のアーティストやクリエイターにたくさん出会えたことだそうだ。仕事や趣味はバラバラだが、みんなつながりたい欲求があったそうだ。
コミュニティの持続性が大事だと考えていて、想像力を働かせ、お互いに共有していける場を作っていきたい。まちのコーディネーターが主催して何かをやるのではなく、岩澤さんたちがいない場所で自発的に広がっていくことが理想だという。イベントなどの参加者は30代〜50代くらいが中心だが、20代の若い世代への仕掛けもやっていきたいと語った。
(インタビューには岩澤哲野さんと、omusubi不動産の原田恵さんも同席していただき、一部原田さんのコメントも含まれています。)
松戸市内のコミュニティがいろんな場所で出来て来て、それを手助けしたい。1人で出来ないで困ってる人や、孤独を感じてる人、コミュニティが希薄になってきて、SNSでも取り残されてる人たちの居場所を作りたい。それが出来るのは演劇だと思っている。継続して広げていく。演劇のある生活を定着させたい。
山登り
theater apartment complex libido: 公式サイト
Twitter (@taclibido19)
・話を聞きます |
※チケットをお願いする時、『ソーシャルタウンガイド』を見たと連絡するとスムーズです。
※コンタクトは下記のメールアドレスから連絡をお願いします。
tetsuya.iwasawa@omusubi-estate.com
せんぱく工舎
千葉県松戸市河原塚408−1
公式サイト
(撮影:畠山美樹)
富山県利賀村
公式サイト
【じゃらん】国内25,000軒の宿をネットで予約OK!2%ポイント還元!
・矢野雅大さん(遊びでまちづくりする準備室)
※つながりは、紹介したキーパーソンとのつながり、または今後インタビュー予定の方です。
もともとは、omusubi不動産の殿塚さんに取材を申し入れたのがきっかけで、原田恵さんからお返事をいただき、まちのコーディネーターの岩澤さんを紹介されてインタビュー。演劇活動を続ける一方でまちのコーディネーターとして地域に根ざした活動を始めたという話には、私自身も少し重なる部分があり、とても興味深くお話を伺えました。松戸はラーメンの街としての側面でしか知らなかったのですが、今回のお話を伺ってそれぞれのレンタルスペースにも行ってみたいと思いました。(野田)
インタビュー・野田国広(編集部) グリーンドリンクス川崎のオーガナイザーをはじめ、かわさき新聞などのWEBメディア運営、シェアオフィスのコミュニティマネージャーなどを勤める。福岡市出身、川崎市在住。野田国広の記事一覧 |